「守備の問題から読み解く、チェルシー崩壊の理由」
このカードが、3‐1のスコアで終わることを予想出来たのは熱狂的ナポリティフォージくらいのものだっただろう。確かにナポリは十分に強く、彼らのホームスタジアムであるサンパオロの熱狂がチェルシーに襲いかかるのは間違いないと誰もが思っていた。ただ、それを差し引いても、選手個々のクオリティで勝るチェルシーが引き分け辺りで上手く抑えるのではないかというのが大半の予想だったはずである。
しかし、得点差以上にチェルシーは無残な姿を晒す事になった。恐ろしいクオリティを持つ事くらい十分に知っていたはずなのに、最も警戒しなければならない水色のトリデンテに守備陣を我が物顔で荒らされ、最もマークしなければならないナポリの主軸であるエセキエル・ラベッシとエディソン・カバーニにしっかりとゴールを決められてしまった。
確かに、フアン・マタがミスに乗じて決めただけという攻撃面も問題があると言わざるを得ないが、それでもある程度はチャンスを作り出してはいたし、不運や蔓延する良くない空気によって決まらなかったという部分はあるだろう。そうなると、一番の問題は警戒していたのに3点を奪われてしまった守備陣にある。ドログバが先制した後「セーフティに守ろう」とチームを鼓舞していたのにも関らず。
CBにかかる多大な負担
まず、チェルシーの守備にとって大きな問題となったのは縦割りがはっきりし過ぎているゾーンディフェンスだった。図を見ていただきたい。
このように、チェルシーの守備は縦に引いた線のゾーンを一人一人が見ることによって成立している。ただ、最大の問題として間に入ってきた選手への対処が遅れることと、SBが簡単にマークを捨て過ぎることにある。スニガのオーバーラップ時などは、システム上WGが守備に戻りづらいため受け渡すのがしかたない場面もあるものの、そういう場面では無くても両SBは簡単にマークを捨ててしまう。ついていかずに中の人間に任せようとするのである。特にラベッシなどがドリブルで中に突っ込んできた時に顕著だったが、ある程度まで追うだけで中に入ってついていくような守備はしない。そうなると、次の図のような状況が生まれる。
この状況になると、とてつもなく負担が大きいのはCBである。誰もいなくなったバイタルエリアでボールを持たれてしまっているのでチェックにいかざるを得ないし、チェックにいかない場合はラベッシがミドルを撃てばいい。チェックに来て、結果的に裏が空けばカバーニに仕事させる事になる。簡単にラベッシにミドルを許した1点目はまさにこの形であり、2点目もカバーニを取り逃がしたのはCBの負担が大きかったからだと思われる。中盤の底にいるメイレレスが決して守備が得意でないこともあって、トリデンテの攻撃に晒されていたのはまだ若く荒削りなダヴィド・ルイス、そしてボルトンから加入したばかりのギャリー・ケイヒルである。これでは、流石にCB陣を攻める訳にはいかないのではないか、と私は考えるのである。
そして、これと全く同じ状況が、エバートン戦でも起こっていた。1トップか2トップかの違いはあったものの、ラベッシ的な役割を果たしてボールを持って中に入ってくるピーナールと、ハムシク的な役割を果たして中で中盤の底の選手を誘い出すドノバンによって中央で数的不利が生まれてしまい、ミドルシュートなどを撃たれる場面などが見られた。1点目の失点シーンもそのような形式だった。さらに、SBが絡むとチェルシーはより崩される場面が増す。
組み立てにおいても高いラインを保ち続ける必要がある事によって、負担は増大する。後半、左SBの裏に流れていくカバーニに手を焼き続けたのも、SBを高い位置に置くせいでCBだけでカウンターに対処しなければならない事によるものだった。3点目もそれによって生まれた。
では、安全に戦うためにチェルシーはどのようにすべきだったのだろうか。個人的には運動量とフィジカルに優れるラミレスを、ラベッシにマンマークでつける事によって守備を解りやすくしてしまうという手がいいのでは無かったのかと思われる。2ボランチにしておけば、中央のキープレイヤーであるハムシクとカバーニを抑えられればカウンターをある程度防止出来る上に、ダヴィド・ルイスやSBの攻撃参加を生かすことが出来るようになる。アンドレ・ヴィラス=ボアスは、自分のフットボールを追い求めている。ただし、そのフットボールはあまりにリスキーで攻撃的過ぎるのだ。チェルシーでは、もう少し安定したフットボールを作っていかなければ崩壊は止まらないのではないか。
理想を追い求めるのも間違いではないが、モウリーニョの愛弟子としての分析力を生かした現実的な建て直しに期待したい。
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