乾貴士、ボーフムでの活躍と物足りなさ
■地元紙は「ミニ香川」と期待
ボーフムの練習場を訪れると、およそ1時間強の全体練習後に、乾貴士とチョン・テセの
2人だけが黙々とシュート練習を行う姿をほぼ毎回目にする。チーム練習が短すぎるため、
日本育ちの彼らにはどうしても物足りないらしい。GKもつけず、互いにパスを出してシュート
を放ち、ボールを拾い集めてはまた蹴る。それを気の済むまで続ける。少年のような2人の
姿は楽しそうでもあり、いつまでも見ていたいような気にさせられる。
乾には、加入当初からほかの日本人選手とは違う期待を寄せられていた。「ミニ香川」と
地元紙が名づけたことは、日本でも広く報じられたはずだ。インターネット時代ということもあり、
練習場に足を運ぶ熱心なファンであれば、乾が香川真司と同じセレッソ大阪で一緒にJ1昇格
を果たしていることも、プレースタイルも加入前から調べあげている。メディアもしかり。しかも、
日本で思われているよりも、ドイツでの香川の知名度と評価ははるかに高く、その影響から
乾への期待度は自然と高まった。
その一方で、「ミニ」という表現には、2匹目のドジョウはいない、香川ほどの活躍を望むこと
は難しいというニュアンスも込められていた。しかし、乾はドイツの人々の予想を上回るパフォー
マンスを披露した。
■2部の攻撃的MF第4位にランクイン
ブンデスリーガ2部前半戦の第19節までを終え、乾は15試合に出場し、チームトップの
5得点を挙げ、高い評価を得ている。どれほど高い評価かというと、サッカー専門誌『キッカー』
による各試合の採点の平均値では、チーム内で3番目に高い2.97をマークしているのだ。
また、前半戦を終えた時点で同誌の選ぶ2部の攻撃的MFの第4位にランクイン。ボーフムの
トップ下=乾という立場を確固たるものとした。
例えば、トスキという、昨シーズン終盤は主力として活躍した中盤の選手がいる。そのトスキが
今季なかなか先発に定着できない要因として、同誌は「乾がトップ下のポジションを奪い取った」
ことを挙げている。記事の内容そのものは、トスキには新たなポジションがあると書かれているの
だが、ここで引き合いに出されるほど、乾の存在感は際立っているということだ。
乾はサポーターにも、地元記者にも愛されている。ボーフム在籍では1年先輩ながら、流暢な
ドイツ語を話すチョン・テセの存在が大きく影響しているのだろうか、熱心にドイツ語を勉強し(香川
とともに個人レッスンを受けることもあるという)、コミュニケーションを取ろうとする姿は、当然ながら
好感を持って受け止められている。
もちろん、それもピッチ内での活躍があってこそ。ボーフムは2部リーグによくある、フィジカルと
パワーを前面に出して縦へスピーディーなサッカーを展開するチームだ。そんな中にあって、乾の
プレーは異彩を放つ。ボールの行方も形勢も変えるワンタッチプレーには、素直にサポーターから
称賛の拍手が送られる。また、仮に自分がベンチに退いたとしても、負ければピッチをたたいて悔し
がる熱さも、Jリーグ時代から変わらず、熱くなりすぎてもらうファウルは、時にスタンドを沸かせる
こともある。
■能力を生かすには上位チームへの移籍が望ましい
しかしながら、すべてが順風満帆というわけではない。ボーフムというチームで乾の良さが100
パーセント生きていると断言することは難しい。先に述べた通り、乾は高い技術を持つ選手だ。
足下からボールを離さずボールと一体化したまま狭いエリアに侵入するプレーは、ドイツの大柄
なDFたちにしてみれば最も厄介なタイプでもある。と、同時にC大阪時代に香川や家長らと見せた
ショートパスのコンビネーションとイマジネーションで相手をあざむきゴールに迫るパスの出し手でもある。
その能力はボーフムでは生かし切れているとは言い難い。味方に使い、使われというのではなく、
乾の役割は個による打開であり、ゴールがメーンなのだ。4-2-3-1の2列目中央ではあるが、
引いてボールを受けなければボールは頭上を越えていくばかり。中盤で仮に受けたとしても、その後
がつながらない。
乾はこう説明する。
「うちのFWは裏に抜けたがる選手ばかり。いったん中盤で足下のパスを入れたくても、裏ばかり
狙っているからタイミングが合わないし、自分のやりたいことをできているというわけではない」
中盤で仕掛けてボールを奪われ、ピンチを招くシーンもあるから、乾も周囲のことばかりを責めら
れない。だが、能力を出し切れず、もったいないと思われることが多いのも事実だ。また、昨季は
昇格争いを演じたチームにもかかわらず、今季前半戦は9位にとどまっている。シーズン中に監督
交代が起きた事態を考えれば、ようやくチームは上昇してきたとも言えるが、助っ人としては納得
のいく順位ではない。
海外移籍まで果たした乾が今後、目指すのは、日本代表への定着ということになる。かつて香川は
「一度、代表で乾とやりたい」と話していたことがある。C大阪で一緒にプレーした感覚は忘れ難いの
だろう。それをJリーグよりも大きな日本代表の舞台で再現したいと願うのは、香川だけではない。
何よりも、乾自身が期待することだ。
そのためには、早期にブンデスリーガ1部を含む上位チームへの移籍が望ましいのではないか。
だが、今夏以降もボーフム幹部は乾を引き止めたい意向だと耳にすることもある。乾の行く末やいかに。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/1112/germany/text/201201240006-spnavi.html
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