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2012年1月17日火曜日

【特集記事】インテルとミラン、先日のダービー戦を振り返って

ガレオーネ門下生の出世頭、若くして王者を率い、その理想を追及し続ける男か。プレミア、リーガを渡り歩いてそのキャリアで常に現実主義を追及、様々なオプションで戦力差を埋める男か。若くして表舞台に躍り出た男か、長く裏街道を渡り歩いて来た男か。2人の男が生きざまと誇りを懸けてぶつかり合った。それが、一つの答えを示してくれるかもしれない。
セリエA18節インテルvsミラン。所謂ミラノダービー。明らかにスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァの雰囲気は別物だった。満員のスタジアムの張り詰めた空気の中で、選手達も最高のパフォーマンスを見せようとしている事が見てとれた。

まずは、お互いのフォーメーションを紹介する事にしよう。ミランは4-3-1-2。
アッレグリというのは、非常に理想を貫く男だ。自らの確固たるフットボールを持ち、ガレオーネ門下生らしく何があっても揺らがない。ガスペリーニ、ジャンパオロの失敗を見ても解るようにガレオーネ門下生は、自らの理想を曲げようとはしない。例え、面子が合っていなかったとしても基本的には自らのフットボールを貫く。それが、今回のフォーメーションにも現れていると言えるだろう。
アクィラーニは怪我で使えない、セードルフも本調子ではないという時点で彼には、フォーメーションを代えたりするといった選択肢も存在したはずだ。それでも、アッレグリは自らの理想を貫いた。そのやり方で王者になったという自信もそれを後押しした。ボアテングをセントラルハーフに置いても、チームは機能し、インテルを問題無くねじ伏せられるだろうと彼は考えたはずだ。
続いてインテルのメンバーは以下の通り。
ラニエリは、得意とする4-4-2フラットでダービーに望んできた。王者相手の苦戦は織り込み済みで、相手に主導権を渡してしっかりと守ってリッキー、長友の左サイドとサネッティ、マイコンの右サイドから必殺のカウンターを狙う戦法だった事は容易に想像する事が出来る。また、リッキーのバイタルへの走り込みとミリートのポストプレーを絡める事も頭の中にはあっただろう。
試合が始まり、まず主導権を握ったのはミランだった。ボールをいつものようにしっかりキープして広範囲に散らしながら組み立て、マイコンのサイドをパトが突破で崩し、長友とイブラのミスマッチを狙いながら二列目を走り込ませるパターンでチャンスを作っていく。
インテルは、この展開に早くも防戦一方となってしまう。頼みのリッキーも、アバーテのタイトなマークでボールを運べない。やむを得ず、ミリートやパッツィーニを走らせても、ミランのCB陣は磐石。ミランは、フィジカルの強いノチェリーノやボアテングによって中盤も制圧する。
「4-4ゾーンでなんとか耐えるインテル、そこを上手くかわしながらゴールに迫るミラン」という序盤が過ぎると、インテルにも少しずつ攻撃のチャンスが生まれてくる。リッキーがアバーテに潰されて、攻撃の起点には厳しいと見たインテルは、マイコンを押し上げて攻撃の起点にしながらリッキーをバイタルエリアへと侵入させる事でチャンスを作り出す。また全体が右に寄った事により、自然に長友が浮く事になり、前半終了間際には素晴らしいクロスで決定機を演出した。
ミランはミランで、インテルの守備を支えるサムエルとルシオの好調から、マイコンのサイドをどうにか崩してもゴール前でのぶつかり合いは難しいと考え、カウンターでパトを走らせてスピード勝負に出る形か、ミドルシュートを撃つ形で崩しにかかる。ミドルの雨を浴びせ、前半終了間際のファン・ボメルのシュートはバー、エマヌエルソンのボレーもセーザルに防がれる。
お互いに決定機を作りながら、前半は終了する。そして後半、やはりボールをキープするのはミラン。インテルは、より堅牢な守備を築く。守備時はパッツィーニ、リッキーが二列目に入る4-3-2-1のような形を取り、セントラルハーフの位置にまで下がったサネッティでマイコンの守備をサポートし始める。こうなると、スペースが消えてしまい、さらにマイコンという穴が無くなってしまったが故にパトの存在感が消えてしまう。
そして、その我慢が遂にインテルに幸運をもたらす。後半9分、インテルにカウンターの場面が訪れる。サネッティの強引なドリブルからの浮き玉パスの処理をアバーテが誤り、ミリートがしっかりとゴールにシュートを突き刺す。
手負いの獣となった王者は凄まじい勢いで攻撃を見せる。ただ、しっかりとゴール前に築かれたインテルの壁を崩せない。後半21分にロビーニョ、後半35分にはセードルフ、後半38分にはエル・シャーラヴィを立て続けに投入し、何度もチャンスを作り出すものの、手を打つのが遅かった感じが否めず。そのままゲームセットになってしまった。
なぜ、ミランはアッレグリの理想とする王者のフットボールが出来なかったのだろう。いつものミランのフットボールには、2つのスイッチが存在する。1つはイブラヒモヴィッチ。引いた位置で簡単に捌く事でリズムを作り、前線ではそのずば抜けたセンスで周りのフリーランを誘発する。1つはロビーニョ。両サイドに流れたり、バイタルに流れたりでボールを引き出すと、そのドリブルとパスでサイドや中央の崩しを誘発する。
この点から考えると、まず、ロビーニョがいなかったというのが一つ大きな問題だった。パトは確かに突破力だけならロビーニョに匹敵するかもしれないが、あくまで自分のリズムで仕掛けるだけで周りが連動して動く事に合わせてドリブルしたりはしていない。それが、パトが突破しても単発で終わってしまう理由になっていた。また、左サイドにしか流れない事が、右SBのアバーテを生かしきれない原因にもなっていた。
また、イブラヒモヴィッチの悪癖が出ていた事もある。バルセロナ時代のCL準決勝でルシオとサムエルに抑え込まれた時と同様に、フィジカルで押しても相手が崩れない事でムキになってしまい、いつものような柔軟なプレーが出来なくなっていた。彼らの追いきれないところまで下りてきてボールを受け、走り込む二列目を生かすようなパターンは序盤はあったが徐々に見えなくなってしまった。終盤はエリア内で放り込みを欲しがり、簡単に跳ね返されてしまう場面が目立った。
そして、それに加えて大きな問題になっていたのは全体の経験だろう。ボアテング、ノチェリーノ、エマヌエルソンといった選手たちは失点してから焦りを見せ、いつものようにしっかり回すというより簡単に放り込む事を選択してしまった。イブラヒモヴィッチが放り込みを求めた事もあって、状況はより悪化。アバーテも、自分のミスで失点してからは取り返そうと無理なプレーが目立った。
焦りが無く、いつものようにしっかりとボールを左右に散らしながらリズムを作れていたらと思わざるを得ない。「最初からアクィラーニやセードルフを使えていれば」という意見も理解出来る。恐らくチーム全体があのような浮き足だった状態になってしまった時点で、誰が入ってもいい結果は期待出来なかっただろう。実際、ロビーニョやセードルフはチームを落ち着かせようとしたが上手くいかずに終わっている。
「試合としてはミランだった」と見るサポーターも多いだろう。内容は圧倒し、カウンターで運悪く失点してしまっただけだからだ。だがその実、試合終了が迫るほどに理想に縛られて追い込まれたのはミランだった。司令塔タイプの代役として、序盤は上手くボールを繋げていたボアテングも、失点して自分の役割を忘れ、打開しようと強引な突破に走ってしまう。ボールを回しはしても、スイッチとなるイブラヒモヴィッチの苛立ち、ロビーニョの不在から、上手くいかなくても最終的には柱であるイブラヒモヴィッチしか選択出来ない。見えてきたのは、理想のフットボールと現実の間で上手くいかずにもがく選手たちだった。若い選手が多かったミランにとって仕方無かったのかもしれないが、今後の修正が求められるだろう。
それでも、アッレグリは理想を貫こうとした失敗にある程度は満足を得ているだろう。今回は破れたが前半を見れば、若いメンバーや新加入させた選手たちにもアッレグリのフットボールが浸透しつつある事は確かで、そこに彼は無限の可能性を見ているだろう。まるで殉教者のように、彼は理想のフットボールと共に堕ちるのなら仕方ないと考えているのではないか。
逆にインテルにとって、勝利の転機となったのはどこだったのだろう。私は、後半サネッティのポジションをほぼセントラルのところまで下げて、自らトップ下へ移動してきたリッキーをほぼそのポジションに固定した事だと思っている。(守備時、戻れる時はリッキーは左サイドへ戻っているが)マイコンのサイドは完全にサネッティが埋め、リッキーが中に入った事によって甘くなる長友のサイドは、3センターを上手くスライドさせる事により消した。とにかく、サネッティの存在が後半の堅守を作り上げたのだ。この判断は、ラニエリの物なのか選手本人たちの物なのかはわからない。なぜなら、前半途中からこの傾向は見られていたからである。しかし、それが選手の判断だったとしても選手の判断を尊重してハーフタイムにシステムを組み換えたのは恐らく監督であるラニエリだろう。彼の柔軟性が、ここで大きな武器になったのだ。
ミリート、パッツィーニも献身的に守備に参加し、後半はとにかく身体を張ってファールを誘ったりと地味な仕事ではあるがしっかりとこなしていた。闘える集団を短期間で作り上げた指揮官の手腕も素晴らしい。
また、後半22分にキヴとリッキーを交代して長友を一列上げる守備重視の采配は、時間帯的にどう転ぶかと思われたが、高さのミスマッチを埋めると共にボアテング対策にキヴが機能。長友のスタミナもミランを苛立たせた。
ラニエリはその柔軟性で、ミランを破った。彼にはフラットの4-4-2という得意のフォーメーションはあるが、それ以外にも「柔軟に様々なシステムを使い分ける」という経験に裏付けられた引き出しも持っている。そして、それが、今回の勝利へと繋がった。彼にとっては、理想のフットボールなどというものはそこまで重要では無く、何より勝利が重要なのだ。求道者のように、彼はインテルで勝利という答えをひたすら求め続けるだろう。今までがそうだったように。

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